News>2010.08.05

 

【寄稿】「声に出して読みたいピーター・ドラッカー」第3回 “我々の事業とは何か?”

 

オンラインメディアEnterprise Zine にて、「声に出して読みたいピーター・ドラッカー」の第三回を掲載しました。

第3回「声に出して読みたいピーター・ドラッカー」 “我々の事業とは何か?”

前回、ドラッカーは、企業の成果とは外部、つまり社会であり外部環境に存在することを述べました。今回は社会の中から具体的に自社の事業に関わる問いかけについてのべます。

 

<掲載文章抜粋>

出典:「マネジメント - 基本と原則 [エッセンシャル版]」  

英語版 「Management, Task, Responsibilities, Practices」

 

事業の目的である顧客を創り出すためには、そもそも誰を顧客とすべきか、自社はどのような事業に集中すべきか、明快な指針が必要となります。顧客は大手法人顧客なのか中小法人顧客か、はたま個人顧客なのか、それらの顧客はどこにいて、何に価値を感じているのか、などです。ドラッカーは、事業のあるべき像を構想するために、以下のような端的な問いかけを行いました。

1.我々の事業とは何か?(What is our business?) 2.我々の顧客とは誰か?(Who is our customer?) 3.我々の顧客にとっての価値とは何か?(What is value to our customer?)

我々の事業とは何か、何であるべきか、単純な問いかけですが答えるのは容易ではありません。環境が変われば事業も変わる必要があります。ドラッカーは以下のようにのべます。

「自らの事業は何かとの問いに答えるほど、簡単で分かりきったことはないかに思われる。だが、この問いに答えることは、つねに難しく、思考と検討なくしてできることではない」(『現代の経営』)

例えば米国の鉄道会社は、自社の事業を「運輸事業」ではなく「鉄道事業」であると定義したことにより衰退の一路をたどりました。1960年代、米国内の旅客や貨物輸送の需要全体は伸びていました。にもかかわらず米国鉄道会社が廃れていった理由は、鉄道事業そのものを目的としたところに衰退の原因があります。輸送に関わる需要を捉えるためには、事業そのものを運輸事業として定義し、伸張する新たな旅客や輸送のニーズをつかまなければならなかったのです。

あるべき事業とは何か、再定義することで成長したのがIBMです。かつてIBMは汎用機などのハードウェア販売事業が中心でしたが、1997年にe- Businessコンセプトを発表しました。今までは「ハードウェア販売事業」であったが、今後はソリューションを提供する「サービス事業」であるべき、と再定義しました。背景としてITシステムが複雑化したため、単なるハードウェア販売だけではなく、ハードウェア導入に伴うIT関連のコンサルティング需要が生まれたことがあります。事業の再定義とともに自社のソリューション能力を向上させるため、社内教育プログラムも立ち上げました。 

 

我々の顧客とは誰か?

事業の目的が顧客創造である以上、自社の顧客について考えなければなりません。そして顧客こそが自社の事業を定義する主体となります。自社の顧客は一体誰であり、その顧客がどのような購買行動と嗜好をもっているか、を理解すべきです。ドラッカーは以下のように述べています。

「事業は何かを知る第一歩が、顧客は誰かを考えることである。次に、顧客はどこにいるか、顧客はいかに買うか、顧客にいかに到達するかを考えることである」(『現代の経営』)

顧客とは通常二つから三つ以上のセグメントが存在します。例えば飲料水メーカーであればスーパーや販売店などの小売業、および実際に商品を購入する消費者が顧客にあたります。携帯電話メーカーなどであればキャリアや個人ユーザー、また法人ユーザーが対象顧客となるでしょう。自社の顧客が誰か、そしていかにして購入活動が起こるのかです。ドラッカー氏はのべます。

「顧客が価値と考えるものはあまりに複雑であって、彼らだけが答えられることである。憶測してはならない。顧客のところへ行って答えを求める作業を体系的に行わなければならない」(『現代の経営』)

どこに顧客がいるのか、大きな意味合いを持つ場合があります。例えば駅前の花屋として急成長している青山フラワーマーケットでは、冠婚葬祭向けの需要ではなく、一般消費者に絞り、日常生活で使われる花の新規需要を創出しました。従来の花屋は墓地のそばや病院のそばにあるのですが、一般消費者をターゲットにしたため、人通りがある駅前に店舗を出店しています。顧客がどこにいるのか、考え抜かれた店舗立地でもあります。

 

我々の顧客にとっての価値とは何か?

事業を構想する上で、最も重要でありながら答えるのが難しい問いかけでもあります。顧客は決して製品そのものが欲しくて購入するわけではありません。彼らは製品を購入することで得られる価値を求めて購入します。例えば最新ノートパソコンを購入するビジネスマンは、パソコンそのものではなく、より高い作業効率を求めて購入します。お気に入りのロックバンドのCDを購入する若者は、音楽を聴くことによる高揚感や満足感、刺激を求めて購入するわけです。居酒屋で仕事仲間との食事とは、食欲を満たす以上に、楽しいひと時にこそ価値があります。

製品だけを見ていると、見落としてしまうのが顧客にとっての価値になります。ドラッカーは以下のように述べます。

「顧客とは価値を購入する。製造業とは、商品の製造販売を行うだけで、価値そのものを創り出すわけではない。<中略> 顧客が何を価値とするかは、顧客だけが答えられる複雑な問題である。推察してはならない。顧客のところへ出かけて行き、聞かなければならない。」(意訳、Task)

例えば近年の10分のスピード散髪を提供するQBハウスでは、従来のリラックスした時間を提供する理容店というよりも、お手軽な時間節減サービスでもあります。忙しい中、ビジネスマンがお昼休みや移動時間に利用できる手軽さや利便性が魅力です。

同様に利便性を打ち出し成功した事業は数多くあります。事務用品のネットや通信販売を行うアスクルは、事務用品販売事業というより、注文したものが明日来るそのスピードや利便性が価値でしょう。また酒類の通信販売を行うカクヤスも、安価な価格というよりも利便性とスピードが提供価値となります。東京23区内であれば2時間での配達をうたっています。ちなみにアスクルやカクヤスとも、商品自体が必ずしも安価というわけではありません。

今回は事業を構想するための問いかけについて述べました。次回は事業を動かすための目標について述べていきます。