News>2010.05.26

 

【コラム】”「声に出して読みたいピーター・ドラッカー」連載開始”

 

オンラインメディアEnterprise Zine にて、「声に出して読みたいピーター・ドラッカー」の第二回を掲載しました。

第2回"“事業の目的とは顧客の創造である”

前回、様々な側面からの見方が存在すること、中でもドラッカーは、社会的な側面から企業を眺めたことを述べました。社会の中にある企業は、全ての貢献が企業の外、つまり社会であり外部環境に存在することを示しています。

 

<掲載文章抜粋>

"The purpose of the business is to create customers" ―事業の目的とは顧客の創造である―

出典:Management: Tasks, Responsibilities, Practices 『新訳 現代の経営』 『新訳 創造する経営者』 

 

前回、様々な側面からの見方が存在すること、中でもドラッカーは、社会的な側面から企業を眺めたことを述べました。社会の中にある企業は、全ての貢献が企業の外、つまり社会であり外部環境に存在することを示しています。

 企業において、売上や利益とは明日の財やサービスを提供するための必要条件でしかありません。それは継続的に事業の目的を満たすため、つまり継続的に顧客が喜んで対価を支払う財やサービスを提供するための必要な資源です。

 企業の存在価値とは、顧客への価値を届けることであり、財やサービスを通して実現されます。これらの提供する財やサービスとは、買い手、すなわち顧客が喜んで支払うものでなければ価値を生み出せません。ドラッカーは、「組織は、自らのために存在するものではない。買わないことを選択できる第三者が、喜んで自らの購買力と交換してくれるものを供給することである」『断絶の時代』と述べています。

 ドラッカーは「事業の目的とは顧客創造である」(The purpose of business is to create customer)と定義しました。財務的な指標を目的とするのではなく、長期的な視点でかつ社会から企業を眺めた名言でもあります。今でこそ顧客サービスや顧客は神様(The Customer is God/King)、顧客第一主義(Customer oriented / put customer first)、顧客こそボス(The Customer is boss)などという顧客に重きを置いた言葉が氾濫していますが、この顧客志向の考え方は比較的近年に生まれた考え方です。特にドラッカーの時代では、極めて新しい考え方といえるでしょう。

長期的な視点で観る

 事業において、目的手段の関係や因果関係は混在しています。売上向上で利益を創るのか、それとも今日の新製品や新サービスで将来の売上を創るのか。顧客のニーズが先なのか、技術や製品などのシーズが先なのか、鶏のたまごが先か鶏が先かの議論は、よく混乱を招きます。

 事業とは、今日の資源を、明日の顧客を創るために配分することであり、その一連の活動であります。これらの活動には、長期的な視点が大前提となります。繰り返しになりますが、財務的な利益とは目的ではなく手段です。同様に株主への貢献とは永続的に顧客を創り続けるための手段と捉えるべきでしょう。事業の目的とは、今日の財務的利益を使い、新たなる価値を生み出す財やサービスを提供すること、それにより明日の顧客を創ることに他なりません。

 会計用語として、ゴーイングコンサーン(Going Concern)という言葉があります。日本語では「継続企業の原則」とも呼ばれ、企業会計において、企業とは永続的に続いていくとする大前提でもあります。今日の企業とはすべてこのゴーイングコンサーンを軸としており、企業とは解散することを前提においていいません。

 ゴーイングコンサーンではない企業も存在しました。例えば15世紀中ごろから17世紀中ごろまで続いた大航海時代(だいこうかいじだい)、ヨーロッパ人によるインド・アジア大陸・アメリカ大陸への進出の時代においては、企業というものは航海のたびに資金や人が集められ、ひとつの航海が終われば成果を分配して解散しました。

 継続的に事業活動を前提にする今日、収支を立てることは、会計年度毎の作業であり、企業の消滅を意味しません。

事業を外から観る

 どのような事業であれ、事業を外から見ること、つまり事業内の事情や理由ではなく、外から位置づけられ評価されるべきです。これは事業の目的が顧客を創造することであれば、至極当然の見方となります。事業のあるべき姿はやはり顧客の視点から、または外部環境から眺めた姿が起点となります。

 そして事業の成果とは、事業目的が顧客創造であるが故に、事業の財やサービスに満足した顧客を創り出せたのか否かになります。ここが財務的な指標を持つ企業とNPOなどに代表される非営利組織との異なる点です。非営利組織では、組織の内に成果があります。

例えば病院機関の成果とは、どれだけの病人を治療し治癒したかにあります。教育機関の成果とは、どれだけの生徒に、数年後の実社会において役立つノウハウや知識を提供し学びを与えるかにあります。しかし企業において、その成果とは事業の外にしか存在しません。事業の内にはコストしかありません。すべての事業が生み出す価値は、外にあり、どれだけ満足した顧客を創りだせるかにあります。

 事業の売上や利益は、顧客創造の指標の一つではあり、成果指標の一部ではあります。それは顧客が自社の財やサービスを購入した、過去の結果であり、将来の成長性を表した指標ではありません。それどころか、時として今日の売上増加や利益率増加が明日の顧客創造の阻害要因ともなります。

 例えば1970年以降の米国自動車業界におけるキャデラックの衰退があります。かつてのGM社のキャデラックは、当時順調に売上を伸ばしていました。米国のキャデラックとは、単なる高級車にとどまりません。それは持ち主のステータスを表し、自身の成功の証でもありました。当時のエルビス・プレスリーを初めとし、多くのセレビリティがこのキャデラックを愛用しました。

 ところが1980年代以降のキャデラックは、BMWなどの他ブランドの攻勢とより衰退の一途をたどります。オイルショックだけが原因ではありません。当時のキャデラックのオーナーとは、ほとんどが50歳代以降のシニア層であり、若年層はいませんでした。そこにBMW等の他ブランドが新しいイメージを吹き込み、若年層の顧客を創造していったのです。

GM社は、創造すべき顧客像を全く見ていないだけか、売上や利益などの財務的指標が全てであるとして、マネジメントを行っていたのではないでしょうか。

 今回は事業の目的とその大前提について述べました。次回は、事業のあるべき像を構想する問いかけについて述べていきます。